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ひとたび精神疾患に罹患すると、人は自分の内面について考える機会が圧倒的に増えます。と同時に自分の症状に焦点をあて、一日中症状の変化を追うようにもなります。

次の診察で自分の症状を的確に伝えたいという思いから、1日の気分の変化を細かくメモやグラフにしている方も少なくないと思います。

自分の症状を知るというのは大切なことです。病院という所は自己申告制ですから、きちんと伝えなければ的確な治療が受けられないからです。

しかしそういった毎日を過ごしていくうちに、気付くと一日中症状に縛られて、本来一番大事にすべき日常生活がおろそかになってしまうことだってあります。

特に不安症状というのは厄介です。考えないようにするということが、これほど難しい病気は他にないのではと思うほど、一日中症状に囚わて苦しむのがこの病気の特徴だともいえるでしょう。


軽快すると症状に囚われなくなる

私も当事者の一人ですが、現在うつが酷くなった時以外は社交不安や特定恐怖などを除いたパニックや動悸、過呼吸発作はほとんど起こらなくなって来ています。

それらが起こらなくなってどうなったかというと、日常生活で不安症状について考える機会が非常に少なくなったのと、不安の強くなりそうな場面で恐怖に焦点をあて過ぎることが、あまりなくなりました。

要するに症状に対する強いこだわりが減ったのです。



どうしても解放されたかった

不安障害を乗り越えようと強く思った時に、私に大きく影響を与えたものは「マインドフルネス」「森田療法」に共通する「今、この瞬間」に焦点を当てることでした。

と言っても私がマインドフルネスを知った当時は、まだ専門書しかない頃で、インターネット上にもほとんど情報がなかったので、実践しようにもやり方がさっぱり分かりませんでした。

瞑想なんて面倒臭そうでしたし、難しいことは理解できなかったので、取りあえずインターネット上の少ない情報から自分でも出来そうなものだけ都合良くチョイスしてやってみることにしたのです。

正直そんなもので良くなるとは全く思っていなかったのですが、これが思いもかけず効果を発揮してくれました。

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やってみたこと

面倒臭そうな理論や方法は一切無視した我流の精神療法なので、私はこれを「なんちゃってマインドフルネス」と呼んでいました。

やってみた事は3つです。

(1)五感に飛び込む情報に集中する。
(2) 理由を考えない
(3) 外に出る機会を増やす


本当に簡単過ぎて「なんちゃって」にも程があるとさすがの私も思いますが、せっかくですので今回は(1)の「五感に飛び込む情報に集中する」について書かせていただこうと思います。



五感に飛び込む情報に集中する

これはマインドフルネス、森田療法に共通する考えである「今ここ」を味わうということです。

人は歩きながら、信号待ちをしながら、電車に揺られながら等あらゆる場面で考え事をしています。今日の予定をおさらいしたり、昨日の友人との会話を思い返してみたり...

不安障害の人であれば、日常生活の中で過去に起こしたパニックの恐怖を頭の中で再現したり、将来同じ場面に出くわしてしまったら、一体どうすればいいのかと悩んだりといったところでしょうか。

それはあなたが「今ここ」にいないしるしです。頭の中は今ではなく過去や未来にいるわけです。

この訓練は自分を過去や未来から「今ここ」に呼び戻すのが目的です。



「今ここ」とは

イメージとして一番分かりやすいのは、食事の場面でしょうか。食事は五感で感じながら食べるのが、美味しく食べる秘訣だと言われます。

食べ物を口に含んだ時、例えばそれを柔らかいと感じたり、辛いと感じたり、熱いと感じたり、食べ物を感覚で味わうこと。簡単に言えば、それが「今ここ」にいる状態です。

「今ここ」で食べ物を感じているのです。

その時に、たとえ5分前に届いたメールの事を思い出したとしても、その事に気付いたら、また食事という「今ここ」に戻ってくれば良いのです。

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実践してみよう

私は家の中だと感じる変化自体が少なかったため、外を歩きながら「今ここ」を感じる練習をしていました。

例えば駅までの道のりを歩く時、玄関を出ると風が吹いています。その時「風が吹いている」ことを感じたら、「風が吹いている」もっと言えば「暖かい風が左の肩を通り抜けている」と感じた事を心の中で言語化します。

また「風で木が揺れている」のが目に入れば「風で緑色の葉っぱが揺れて落ちてきた」と同じように心の中で言葉し、「車が通り過ぎた」なら「白いワゴン車がゆっくり私を追い越した」と、心の中でひたすら五感に飛び込む出来事を実況中継するのです。

歩きながら、気付くと今日これからのスケジュールを思い出していたり、過去に誰かに言われた言葉を思い出していたとしても、そこに気付いたらまた同じように「今ここ」に戻る事を繰り返します。

肝心なのは五感で感じた事を、感じただけに留める事です。評価をせず、そこにどんな感情が湧いたとしても、ただ受け流すのです。

例えば不安で動悸がしているのなら「不安で動悸がするな」と感じ、それはそれで受け流してしまいます。

そしてまた「今ここ」に戻ることを繰り返していくのです。

粛々と「今ここ」を感じる事だけに意識を集中させるのがコツです。



独り敬亭山に座す

当時、マインドフルネスを紹介していた記事の中で、「今ここ」を理解するのに大変役に立ったものがありました。それは李白の詩です。

「独り敬亭山に座す」

鳥は鳴き、空に消えていく。

そして今最後の雲が流れ去る。

供に座るわれら、山と私。

山だけが残るまで。

ー 李白 (井上ウィマラ訳)


私はこれがマインドフルネスのすべてだと思いました。

朝夕ベランダに座り、何も考えずにただ雲が流れるのを眺めるのは、私の毎日の日課です。


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囚われやこだわりから自由になろう

不安障害を乗り越えるために大事なことのひとつは、症状に囚われない事です。恐怖に焦点を当てれば当てるほど、恐怖は近寄って来ます。

避けようとすればするほど、恐怖の方が自分に近づいて来るのです。

恐怖を恐れているのは、過去と未来の自分です。今あなたがこの記事を読んでいる目の前に、恐怖の対象物が存在しているでしょうか。

「今ここ」を感じる訓練は、強い恐怖への囚われから距離を置くのに適しています。

森田療法の考えもそうですが、たとえ今不安や恐怖を感じていたとしても、それはそれ。感じたらそれを受け流し、そしてまた今に戻って同じ日常生活を続けていくのです。



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この記事は、前回ストレス反応について書いた逃げない勇気。不安障害を乗り越えるためのヒント。その1の記事と合わせて、不安障害をテーマに書いています。

「ストレスは敵ではなく味方」とマインドセットを切り替え、恐怖から逃げずにチャレンジすること。そして過去でも未来でもなく「今ここ」に集中すること。

この2つのヒントは、きっと不安障害を抱えた方のお役に立てると思いますので、少しでも日常生活を楽に過ごすお手伝いになれたら幸いです。